ソーシャルワーカーという仕事

公開日: 2010/02/17 MSW

この仕事をしていると、人間が属す最小単位の組織である「家族」ということについて非常に幅広い見識と考察が必要だなと感じます。


家族は何人かの構成員で構成されています。
家族という組織を継続していくために、構成員各々が役割を持っていて、その役割を各自が遂行することで、家族はバランスを保っています。


家族が、自分たちだけで対処できない問題に出会うとき≒バランスが保てなくなるときであり、バランスを保つために、外部の関わりや援助が必要になり、それは経済的な問題であったり、家族関係の問題であったり、社会的な問題であったりします。


ソーシャルワーカーが出会うのは、そんな状況にある家族です。


育児、教育、介護などの家族機能がその構成員だけでは果たせないとき、本来家族内で対処してきたこれらの問題を、家族の外の援助を受けることにより、家族のバランスを保っていくことになります。


これは家族機能の外部化と呼ばれていています。
保育所も、塾も、老人ホームも外部化された家族機能を補うものです。


家族機能の外部化、というのは核家族の多い現代においては当たり前過ぎて、今更それがどうこうとは表だって語られることはないのですが、家族という最小単位の組織が、どのような問題に対し、自分たちだけの力だけで対処することが難しくなったのか、ということをしっかりと見極めていくことは、ソーシャルワーカーに必要な大事なアセスメントの要素だと思います。


ソーシャルワーカーは、家族の機能と、それのみで対処できなくなった問題との接点(インターフェイス)に対し、多種多様なアプローチを用いることで、家族という機能のバランスを保っていってもらうことができるように関わっていきます。


例えば病院であれば…
入院により足腰が弱ったり認知症が進んだ患者さんに対して家族が「介護が必要になったから施設に入れるしかない」という家族機能を外部化して問題解決を図ろうとする行動の過程を考えたとき、


介護が必要になった。
→介護できないから、施設に入れるしかない!


ということではなく、


介護が必要になった。→介護なんてできない!
家族に「こうなれば家で介護できるかもしれない」というイメージを描いてもらえるような過程を共有するという意識を持ち、それを医療スタッフと家族で共有した上で介護が「できるか」「できないか」という選択肢を考えることができる環境を整える。


介護が必要になった→介護なんてしたくない!
離婚。蒸発。借金。虐待。過去の家族関係の問題で、その機能を果たそうとしないこともときにはあります。


家族が自分たちの機能を評価し、目の前にある問題に対して、どのような工夫や方法であれば対処ができそうか、しようと思うか、という過程を医療者側と患者さん・家族が共有する。


そして、それを実現可能なものにしていくために医療者側はどのような援助ができるか、という医療者側と患者さん家族で共通の地図を描いていくことができるよう、ソーシャルワーカーにはその素地を整えることもできるスキル(チーム内のコミュニケーションを活発にする働きかけ等)も必要だと思います。



上記のようなことを考えながら日々仕事をしており、だからこそ家族単位で捉えることの重要性と、家族間に存在する関係性と、常に変動するダイナミクスについて、面接において一緒に話を聞かせてもらいながら、頭の中に地図を描いていくということをイメージしています。


当然のことだけれども、家族が3人いれば、皆が同意見のこともあれば、皆が違う意見を持っていることもあります。


語る人間の主観によって婉曲されることのない「事実」
家族の関係性の中で生じている感情、想いという可変性のあるモノ


両者ををきちんと地図に組み入れていくことが非常に大切です。


家族にとっての事実とそこに付随する意味(家族の分だけ意味づけがある)をできるだけ、その人たちの意味に近いところで理解し、患者さん家族に関わるスタッフ間で共有し、チームでのアプローチに活かしていくために、ソーシャルワーカーにはアセスメントの力が必要不可欠なのです。



日本の医療費は増大していくばかりで、国は患者さんの入院期間が長くなれば長くなるほど、病院に入る収入が少なくなるという政策をとっています。


すなわち、長期入院患者が多い病院は儲からない。
ですので、病院が経営を成り立たせていくためには、治療が終わった患者さんは1日でも早く退院してほしいのです。


病院に勤務するソーシャルワーカーには、病気によって生じる様々な問題を抱えた患者さん家族に出会います。


先に挙げたような理由で、介護の問題などで退院できないような患者さんがいると、すぐには退院できなくなり、入院が長引きます。


そういった患者さん家族は、病院の経営にとっては、「早く出ていってほしい人」というのが今の現実です。


病院のソーシャルワーカーは、そういった問題を持った患者さんを無事退院させることができれば、病院の経営陣からは評価されます。


ですが、多くの病院で働くソーシャルワーカーたちはそんなことで評価されたいがためにこの仕事をしているのではなく、


その人たちだけでは対処が難しい様々な問題を抱える中で、「どうしたらその人たちが望む生活を継続していけるか」ということを一緒に考え、それが実現可能になるよう、様々な方法、アプローチを用いて、その人の人生の一時に関わっていけることに楽しさとやりがいを感じているのです。


日々職業的価値を問い続け、研鑽し続けることはとても大変なことだと思います。
だからこそ、高い志を持ち続けることが大切なんだと思います。


ハートもスキルも一流でなければプロフェッショナルとは言えない。
プロフェッショナルと胸を張れるいつかその日まで、妥協しないでいこうと思います。




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