外国人の方が利用できる日本の社会福祉制度

公開日: 2016/10/25 SCA 多文化




上記において、お話しした内容をこちらに転載いたします。
外国籍の支援における初学的内容になっていますので、よろしければご参照ください。


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このたびは、「外国人の方も利用できる日本の社会福祉サービス」についてお話をさせていただきます。
短い時間で全てをお伝えすることは困難ですので、本日は、日本の生活保護制度、公的医療保険の概要と、みなさんもご相談対応に苦慮される事が多いと聞いている在留資格のない外国人の方も受けられるとされている制度ついて皆様にお伝えをさせていただきます。本日ご参加くださった方にとって意義のある時間になれば幸いです。

まずはじめに、日本における、社会福祉、社会保障、医療、公衆衛生等の法律・制度は、憲法25条「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」という生存権を保証するために整備されています。


1.生活保護制度ついて

お手元の資料、生活保護制度についてをご覧ください。

生活保護制度は、冒頭お伝えした、生存権を保障する憲法第25条を根源とするものではありますが、憲法第25条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と規定していることから、生活保護法も日本国民のみを対象としています。

ですが、適法に日本に滞在し、活動に制限を受けない永住、定住等の在留資格を有する外国人の方については、国際道義上、人道上の観点から、予算措置として、生活保護法を準用しています。
 
具体的には、
(1)出入国管理及び難民認定法における在留資格を有する者(永住者、定住者、永住者の配偶者等、日本人の配偶者等)
(2)日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の特別永住者(在日韓国人、在日朝鮮人、在日台湾人)
(3)入管法上の認定難民

以上が、生活保護法の準用の対象となります。よって、これら以外の方は生活保護制度の対象とならないということになります。なお、在留資格のない外国人の方については、

・入管法上、日本に滞在することが認められておらず、強制退去の対象とされていること
・生活保護の対象とすることが生活保護目的の入国を助長するおそれがあること

以上より、生活保護法を準用していません。


2.公的医療保険について

つづいては、日本の公的医療保険の仕組みについて簡単に説明をさせていただきます。
お手元の資料をごらんください。

日本は国民皆保険ですので、原則、国民健康保険、健康保険などの公的医療保険に加入します。
公的医療保険に加入している場合、医療費の自己負担割合は、就学前までは2割負担、就学後から69歳までは3割負担、70歳以上は所得によって異なり、1割〜3割となります。

ですが、公的医療保険に加入せず医療にかかった場合は全額10割自己負担となり、医療機関が自由に請求できるので、支払いはかなり高額になります。また、保険対象外の治療の場合は、保険が適応されません。

健康保険は会社等に勤めている方が加入する保険です。
国民健康保険は外国人でも、住民基本台帳適用を受け、職場の健康保険に加入していない方は加入しなければなりません。また、入国当初の在留期間が3ヵ月以下であっても、その後、3ヵ月を超えて滞在すると認められる方は国民健康保険に加入する必要がありますので注意してください。

健康保険、国民健康保険の給付については、資料に記されている通りです。
高額療養費は、健康保険、国民健康保険共に受けられるもので、年齢と所得によって決められた医療費の自己負担限度額を超えた医療費の支払い分が後日払い戻されるという制度です。

所得保障である傷病手当金や出産手当金は、病気や怪我、出産で仕事ができない場合の所得保証です。健康保険に加入している方しか給付を受けることができません。

そのほか、難病や障害をお持ちの方が受けられる医療費の軽減制度や、自治体ごとにことなる医療費軽減制度も存在します。

その方が医療費軽減制度に該当するかどうかの確認や、細かい手続きの方法などは、多くの病院には福祉相談の部署があり、ソーシャルワーカーがいますので、医療費の支払いが難しく相談したい場合や、医療費軽減の制度について聞きたい場合は、病院のソーシャルワーカーをぜひ活用してみてください。



3.在留資格のない外国人の方も受けられるとされている制度ついて

続いて、在留資格のない外国人の方も受けられるとされている制度ついてお伝えをさせていただきます。これは、おもに、内閣に提出された質問主意書に対する答弁書をもとにしています。(平成一二年五月二六日、内閣参質一四七第二六号、外国人の医療と福祉に関する質問に対する答弁書、内閣総理大臣森喜朗)


①医療機関への受診
無料低額診療事業-無料または低額で医療を受けることができる-

在留資格のない外国人の方であっても、「無料低額診療事業」を行っている医療機関で受診すれば、医療費が無料または低額になる場合があります。 

「無料低額診療事業」とは、低所得者などに医療機関が無料または低額な料金によって診療を行う事業です。一定の条件を満たし、都道府県の認可を受けた医療機関が、この事業を行うことができます。

無料低額診療の給付を希望する場合は、2つの場合があります。

①市町村の社会福祉事業担当部署や社会福祉事務所社会福祉協議会に予め相談して、無料(低額)診療券の交付を受け、これをもって無料低額診療事業を行っている医療機関で受診する方法

②無料低額診療事業を行っている医療機関に直接行き、医療ソーシャルワーカーに相談して医療費の減免を決定してもらう方法

無料低額診療事業を行っている医療機関は全国にあり、民医連(全日本民主医療機関連合会)のホームページ(http://www.min-iren.gr.jp)に掲載されています。

厚生労働省は、全国の都道府県、指定都市、中核市の民生主管部(局)長宛の通知で、「無料低額診療事業は広く生活困難者一般を対象とするもの」としており、また「不法滞在の状態にある対象者を治療した場合であっても出入国管理及び難民認定法違反となるものではなく、また、その旨の通報をする義務もない。」としています

医療費がどの程度減免されるかは個々の医療機関によって異なる可能性があるので、社会福祉事務所等、あるいは無料低額診療事業を行っている医療機関にお問い合わせてください


加えて、こちらは公的医療保険ではありませんが、神奈川県横浜市にある「港町診療所」では、健康保険に加入できない外国人のために港町健康互助会という会員制医療制度を設けています。横浜近隣の診療所のみでしか使用ができませんが、加入が認められれば、毎月2000円の会費と医療費用の3割を負担すればよいという制度です。この制度は1991年からスタートし、現在は60ヵ国以上、5000人以上の外国籍の方が利用しています。


②予防接種
在留資格のない外国人であっても、定期の予防接種を受けることができます。
予防接種法は、感染症の発生とまん延を防止するために定期の予防接種の制度を設けています(対象となる疾病は、ジフテリア、百日せき、急性灰白髄炎、麻しん、風しん、日本脳炎など。それぞれ対象年齢が定められています。)

予防接種は、一定の範囲の人の大半が受けることによって効果が発揮されるので、国籍や在留資格の有無に関わらずその地域の住民を広く対象とするものとされています。このような考え方から、日本国籍を要件としておらず、また在留資格のない外国人についても定期の予防接種を受けさせることに問題はないという取扱いがされています。


結核の定期健康診断
在留資格のない外国人であっても、結核の定期健康診断を受けることができます。
予防接種と同様に、結核の発生とまん延を防止するためには、対象者を日本人と外国人、あるいは同じ外国人でも在留資格の有無で区別することは理由がないとされています。このような考え方から、

在留資格のない外国人であっても、法律(「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」)に規定する健康診断を受けることができる、とされています。本人あるいは親族が結核などの感染症にかかっていることが疑われる場合には、お住まいの自治体の窓口にご相談下さい。


④母子手帳の交付、入院助産
妊娠している外国人女性は、在留資格がなくても、母子手帳の交付(母子保健法16条)や、出産費用がない場合の入院助産(児童福祉法22条)を受けられます。その他、乳幼児に対する健康診断(母子保健法12条)、未熟児に対する養育医療(母子保健法20条)、子どもが結核にかかったときの療育(児童福祉法20条)、なども受けられます。 


予防接種、母子手帳の交付、入院助産など、外国人に対する制度適用においては、国の見解と各自治体の見解の違いがあり、在留資格が無ければ、入院助産を適用しない、母子健康手帳を交付しないなどという自治体もあります。

各自治体の最終的な判断により、外国人に対する制度適用が左右されてしまうという現実があり、それゆえ、領事館で自国の方々のさまざまな相談にのられているみなさまや、弁護士、社会福祉士たちが一緒になり、「このようなことが課題で困っている」と声をあげていくことは、外国人の方のみならず日本に住む全ての人々に関する、人権問題や権利擁護への取り組みをすうすめていくことにつながると思っております。

【こちらにお世話になりました】

第1章 入国と入管の手続き
第2章 労働
第3章 結婚・妊娠・出産・母子保健・離婚
第4章 医療と福祉
第5章 子ども
第6章 その他


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