職能団体のチェンジエージェントシステムとしての可能性に関する一考察

公開日: 2017/11/09 MSW 職能団体

先日記した以下2つのエントリを都内のソーシャルワーカーのアセスメントに関する勉強会で使ってくださったとの連絡をいただいた。もともと、そのような意図でさまざまなアウトプットをしていた際に書いた副産物であったので、とても嬉しく、様子を拝聴した。
1.すべてはアセスメントからはじまる。-アセスメントの範囲を広げよ-
2.アセスメントとはなにか?-初心者でもわかるアセスメント-


上記エントリ1で記した事例は、「アセスメントの範囲を広げる」ことをトレーニングするために、「時間軸を遡る逆事例検討」という枠組みとして作成したもので、事例の中身を変えて使うことができるようになっている。(事例シートは現在作成中)
先日、山形医療ソーシャルワーカー協会の社会活動部門の研修で山形県のMSWの方とご一緒させていただいた際にも、「時間軸を遡る逆事例検討」を用いて、現任の医療ソーシャルワーカーの方たちと一緒に、医療機関発のメゾ・マクロ実践について考えた。
そこで聞かれた意見や質問から、「職能団体のチェンジエージェントシステムとしての可能性」について考えたので、忘れないうちに記しておきたい。

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1.職能団体とは何か?

職能団体(しょくのうだんたい)とは、法律や医療などの専門的資格を持つ専門職従事者らが、自己の専門性の維持・向上や、専門職としての待遇や利益を保持・改善するための組織である。同時に、研究発表会、講演会、親睦会の開催や、会報、広報誌などの発行を通して、会員同士の交流などの役目も果たす機関でもある。wikipediaの定義を引用
日本の福祉専門職の職能団体は以下などがある。多くは全国組織の下部組織として、都道府県単位の職能団体を抱えている。
・公益社団法人 日本社会福祉士会
・公益社団法人日本精神保健福祉士協会
・公益社団法人 日本介護福祉士会
・公益社団法人 日本医療社会福祉協会(国家資格ではないが、医療提供施設に勤務するソーシャルワーカーたちの職能団体)
日本社会福祉士会のホームページには下記のような説明がされている。
公益社団法人日本社会福祉士会は、「社会福祉士」の職能団体です。
社会福祉士の倫理を確立し、専門的技能を研鑽し、社会福祉士の資質と社会的地位向上に努めるとともに、都道府県社会福祉士会と協働して人々の生活と権利の擁護及び社会福祉の増進に寄与することを目的に設立しました。
私個人は日本社会福祉士会、東京都社会福祉士会に所属している。
ちなみに、日本社会福祉士会の組織率は低位(10〜20%台)で推移している。
参考)「日本社会福祉士会の加入率からみる社会福祉業界の”福祉政策を決定する政策過程に介入する力”の脆弱さについて」
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2.チェンジエージェントシステムとはなにか?

チェンジエージェントシステムとしての職能団体について語る前に、「チェンジエージェントシステム」について触れておきたい。
Allen Pincus, Anne Minahanの著作『Social work practice: model and method』(1973)において、チェンジエージェントシステムとは、「ターゲットシステムの変化を主導する小集団」と定義されている。
冒頭紹介させていただいたエントリ、「すべてはアセスメントからはじまる。-アセスメントの範囲を広げよ-」内で、以下のように記した。
ミクロ、メゾ、マクロ実践は断絶されたものではないということだ。
これは、当然のことなのだが、ミクロ実践を目的とした現場に身を置いていると、意識化して自身の職業を俯瞰することを忘れてしまいがちになる。
「ミクロからメゾ・マクロへの展開」
「個人を支えることを通して、地域、社会を変える」
表現の仕方は数多あれど、ミクロ、メゾ、マクロは連続体であるということであり、言い換えれば、「アセスメントにおけるスコープ(射程距離)の違い」ということである。
「アセスメントの範囲を広げる」
その際、スコープを大きくとろうとすれば、当然、捉えなければならない(解像度を上げなければならない)システムを構成する要素や関係性(つまりは変数)が増え、そのことがよりアセスメントを困難にする。
アセスメントのスコープを広げ、「このあたりに介入の焦点があてられそうだ」という仮説がミクロの現場から出されなければ、社会福祉の現場からソーシャルアクションがおこること、マクロ実践者たちと協働して、ミクロ実践で見出された課題を社会化することなどは難しい。
介入の焦点(ターゲットシステム)とは、「変化を起こすために介入すべき焦点/対象はなにか?」という問いへのこたえでもある。
介入の焦点を定めたのち、もしくは共に介入の焦点を定め、その後の具体的な介入を行っていく主たる集団が「チェンジエージェントシステム」である。
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3.チェンジエージェントシステムとしての職能団体

冒頭で定義を記したとおり、職能団体とは、一個人、一組織よりも社会的信用を有する、国家資格を有した専門職たちによって構成される組織体であるゆえ、チェンジエージェントシステムとしての職能団体が、メゾ・マクロ実践において取り得ることができる介入方法は、個人、一組織よりも手数が増えるであろうことは容易に想像できる。
さまざまな現場のソーシャルワーカーたちが、メゾ・マクロに実践を寄せていく際のチェンジエージェントシステムとして、職能団体(特に都道府県単位)は、ときに最適な『乗り物』になり得るであろうと考える。
比喩的な表現をもちいれば、現場では軽自動車(自組織)を乗り回すが、よりスピーディに、より傾斜のある領域に侵入(介入)する必要がある場合、乗り物を、大型バス、水上バス、小型ジェット機(職能団体)に乗り換える、というようなイメージである。
(そもそも職能団体という大型バスがパンクしていたり、エンジンが古かったり、燃費が悪いなど、という場合もあるのだが、その点はここでは触れない)
介入の焦点をどこに定めるかによって、適切なチェンジエージェントシステムとしての乗り物は異なるであろうが、現場のソーシャルワーカーは、自身に近い職能団体(が有する資源を)アセスメントしておくことをオススメしたい。
また余力があれば、職能団体の機能を強化するために、自身の資源を投入することも取り得る選択肢になる。
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4.自分が属する職能団体をアセスメントすることの意味

たとえば、とある組織に所属するソーシャルワーカーとして、行政に訴え、変化を及ぼしたいことがある場合、一個人、一組織として、行政にアプローチをしても、それは好ましい変化を引き起こすことが難しい場合がある。
「誰が言うのか」「誰がやるか」問題である。
この際、乗り物を乗り換えるという選択肢が生まれる。
現場で感じている違和感や疑問を、「なんとなくこういった問題がある」という感覚的なものではなく、職能団体の構成員の力を動員して、明確なイシューと化していくことは論理的には可能である。以下、一例を記す。
現場は、一次情報の宝庫である。
調査研究能力は外部から調達すればよいし、発信・リリースの仕方もまた、その道のプロに力を借りれば事足りる。
職能団体の構成員たちによる現場の一次情報をもとに、外部の資源をうまく活用しながら、調査によって違和感を見える化していく。
見える化された地域の課題を、適切な形式でリリースし、地方紙や地方局、市議会議員向けの勉強会などを開催し発表する。一般市民向けでもよいだろう。
地方紙や地方局に勉強会に参加してもらい、「現場の一次情報から見える化した地域の課題」を取材してもらい報道をしてもらう。
市議会議員に議会で質問をしてもらう。それは、行政へ、地域の課題を突きつけ、共に考えてもらうための変化を生み出すかもしれない。
乗り物を職能団体に乗り換え、構成員の力を動員して、調査機能を調達し、メディアや市民を力をうまく借りることによって、現場の一個人の違和感をもとにしたイシューレイジング(問題の社会化)を行うことは論理的には可能である。
もちろん、介入の方法はさまざまなものがある。(以下、いくつか例を記す)

だが問題は、都道府県単位の職能団体が、「自分たちの団体は、どのような能力や機能を有しており、どの範囲の介入の焦点に対して、どういった手法での介入メニューを持っているか」という自団体のポテンシャルの評価ができているか否かにあるように思う。
そこを乗り越えていくことで、単位的には都道府県単位のソーシャルワーカーの職能団体にはチェンジエージェントシステムとしての可能性が花開くように思う。
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その点、先日ご一緒させていただいた、山形医療ソーシャルワーカー協会の組織率はなんと9割を超えており(つまりは、協会の意見=県内の医療ソーシャルワーカーの総意、と言うことができる)、また、理事の年齢も30代〜40代と若く、スピーディな意思決定や先鋭的な取り組みができる土壌が整っているように感じた。
毎年同じ内容の研修をやり続けることももちろん意味はあるが、職能団体のチェンジエージェントシステムとしての可能性を突き詰めていかれている全国の職能団体の動きを追っていきたいと思っている。

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