「クライエントのニーズを引き出す」という言葉に潜む援助者の価値観について考える

公開日: 2012/07/07 MSW 思索

「クライエントのニーズを引き出す」という言葉を使う同業者の方とは、今まで一度も私は話が合ったことがありません。私が相談援助職として尊敬する方達からそういった言葉を聞いたことはありません。


先日、とある方から、最近は新人研修などで「明日から使える面接技術などのハウツー」を求める方が多いと聞きました。「面接でニーズを引き出す方法」とか…。その話を聞いて色々と考えてしまいました。以下はその際に考えたものをまとめたものです。


ニーズは引き出すものではない

私は、新人時代に新人研修不登校(笑)だった身分なのでエラそうなことを言えた身分ではないのですが、このブログを読んでくださっている方はおそらく私よりも若い人たちがほとんどだと思うので、一言言わせていただくと、


「クライエントのニーズを引き出す」という、その言葉尻に、援助者としての貧相な価値観が滲み出ていることを、その言葉を口にする当のご本人はわかってらっしゃらない。


ニーズというのは「発露」するものであり、「引き出す」ものではないのです。
発露というのは、心の中にあるもの、隠されたものなどが表に出ることを言います。


これは、自己表現のプロセスを知っている、もしくは体験したことがあれば、身体でわかるものだと思うのですが、あたまでっかちな援助者の方の中にはどうもこれがわからない方がいらっしゃる。(これについては自己表現のワークショップを援助者が体験してみるという案もあるのですが、これはまた別の機会に記します)


例えば、ソーシャルワークの現場で(主に学者さまたちが)用いる「ニーズ」は対象となる人のライフストーリーやライフヒストリーという線としての時間軸の中に存在する点ということができます。


「ニーズを引き出す」それも結構!
でも…「引き出しておいて」んで、そしてどーするのよ?
「引き出したニーズ」を解決に導く…
解決できれば、それも結構!!


でも、主体はどこにあるのだい?


「ニーズを引き出す」という視点で援助論を語ること自体が、「援助者主体」の価値判断を採用していることの証拠なのです。


発露することは、その主体が自己表現のプロセスを経る

そもそも、時間軸の中に突如ニーズが出現することはほとんどありません。
時間軸の中で、徐々に積み重なった物事たちが、ある時点でニーズとして発露するわけであり、その人の人生の一瞬しか知らない人間に「引き出せる」はずがないのです。

発露するということについて言えば、発露すること自体が自己表現のプロセスを経ることになります。


発露する=自分が見えなかった、見ようとしていなかった物事を表に出すこと、つまりは自らが「気づく」ということなのです。そこには「気づく」という主体であるクライエントが存在するのです。


援助者にできるのは、発露する環境を共に創り上げることくらいでしょう。
いえ、「ことくらい」ではなく、これが出来れば、援助者としての役割のほとんどを果たしたと言っても言い過ぎではないと思います。


学びの種子を未来へ放り込もう

発露されたニーズには、もちろん、発露した主体(クライエント)がいます。
主体が、発露されたニーズに対して、向かうべき方向(こうなりたいと思う未来)に舵取りができるよう、援助者は、地図を見たり、方向を教えたり、お手伝いをすればいいわけです。


私は、援助者としての自己覚知論と、発露する=自己表現のプロセスの中で気づく、ということを考える上で有用なナラティブ・アプローチについての論を記してきました。


自己覚知に関する個人的見解
自己覚知論:「経験」を自身の屋台骨に昇華させるために
自己覚知論:援助者としての「自由な振る舞い」について考える(NEW!
自分を知るということ(自己覚知)から自己活用へ(NEW!


ナラティブ・アプローチにおける「語り直し」について
ナラティブ・アプローチにおける「舞台化された身体」について考える
・ナラティブ・アプローチにおける映し鏡としてのソーシャルワーク機能について考える


この5年間の臨床の中で、ある程度の屋台骨を得ることのできた価値領域だと思っています。


対人援助の領域において、短期間でうま味を得ることができる特別な果実は存在しません。学びという種子を時間軸の中に放り込みましょう。


何かを学ぼうとすることは、未来の自分にボールを投げる行為なのだと思うのです。
今は、これがどう育つかはわからないけれど、いつか実り多き果実となるのではないかと思い、未来に向け、学びという種子を放り込む。


「お前なんぞに引き出せるニーズなどないと心得よ。」


私自身が、戒めの言葉として刻んでいる一言です。






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