対人援助職がクライエントと築く関係性の前提として存在してるもの

公開日: 2013/09/26 MSW キャリアデザイン コミュ論 思索



対人援助職がクライエントと築く関係性とはどのようなものか?


その問いに対する私の答えは、「”非”日常性かつ、特定の目的を有した関係性」である。



この問いのこたえを前提とすることで、クライエントが援助者に対して向けるメッセージの多くは、「”非”日常性かつ、特定の目的を有した関係性」であるからこそ成立しているものだという理解をすることができる。


「”非”日常性かつ、特定の目的を有した関係性」であるからこそ、援助者は、必要があると判断する事柄についてクライエントに臆することなく「質問」することができるし、クライエントも、自己開示をしたり、”発露”することができる。これは当たり前なのだけど、心に留めておかないと忘れてしまいがちになる。


1.”非”日常性、特定の目的とは?


「”非”日常性」というのは、物理的な場の制限等、コミュニケーションが生じる際の「条件/制限」があり、その「条件/制限」が揃わないと、コミュニケーションが発生しないということ。


「”非”日常性」という、コミュニケーションが両者に生じる際の「条件/制限」が、人に安心を与え、自己開示や発露させやすくなるという「構造」のもと、対人援助職は仕事をしている。


この場合の「特定の目的」は言わずもがな、「生活上に生じる問題・課題等で、クライエント、もしくはクライエントのもつネットワーク内で解決が難しいものを、軽減したり、解決する」という目的である。



2.自己開示する自分の情報(感情含む)は「”非”日常性、特定の目的」の有無で変化する


人が、他者に対して自己開示する情報(感情含む)は、「”非”日常性、特定の目的」の有無で変化する。


このことは、「親しい友人に相談できること・相談したいこと」、「信頼できる専門家に相談できること、相談したいこと」との間にある違いはなにか?という問いを考えることで、容易に説明ができる。


恋愛相談を専門家にする人は稀だろうし、法律問題を専門外の友人にすることも同じく稀だろう。


自らの法律問題について相談をする際、そこには多くのプライベートな情報が含まれることは容易に想像できる。だが、出来れば他人に知られたくないようなプライベートな情報であっても、その情報を開示することで、抱えている問題を解決に導くことができるのであれば、以下の不等号が成り立つ。


プライベートな情報の開示に伴う諸リスク<問題解決により得られるメリット


それに加えて、「自分のプライベートな情報が日常生活で関わる他者に知られることはない、という非日常性が担保する安心感」も、そこには存在する。


援助者である自分たちも、常に上記の不等号等が成立する状況下で、クライエントに質問しているのだということを自覚したい。


3.クライエントが”非”日常性、特定の目的」を脱した行動をする意味


(極論:例えば面接室では)援助者はクライエントにとって、「この扉を出れば、次にこの扉を開けるまで、(自分が求めない限りは)関わることのない人」である。


そのようにクライエントが”思うことができること”自体が「”非”日常性」を満たし「特的の目的」を共有できていることのあかしであり、この場合は上記不等号(プライベートな情報の開示に伴う諸リスク<問題解決により得られるメリット)が働く。


「援助者は自分の興味関心だけでクライエントに質問をしてはいけない」と先人たちが言っているのは、上記の不等号が働いている状況下を、援助者の私的な目的に用いるな、ということを言っている。つまりは非倫理的なことをするべきではないと戒めているのだ。


クライエントの行動が、どう考えても、「非日常性」、「特定の目的」を脱するようなものであるとき、それは概して「一般的な他者との関係においては、距離が縮まった」と感じられるものが多い。


「連絡先を教えてくれませんか?
「○○さんは、今、どこに住んでいるのですか?」


例えば上記のような言葉がクライエントから聞かれた時、援助者側は、それを「クライエントとの距離が縮まった!信頼してもらえた!」と思うのではなく、「転移かもしれない」と疑うべき、というのは、先達の言葉からも明らかだ。

以下、「転移」について、尾崎新氏の『ケースワークの臨床技法―「援助関係」と「逆転移」の活用』から一部引用して紹介する。



クライエントがかつて経験した感情や経験、または自分に向けている内的感情を援助関係に投影することを、「転移」という。転移は、クライエントの対人関係の歴史や特徴、または内的感情を理解する資源であり、臨床診断や援助の方向を検討する上で貴重な資料であるといわれる。 

一方、援助関係の中で、援助者に生じる感情や反応は、「逆転移(あるいは対抗転移)」と呼ばれる。逆転移には、いくつかの種類がある。まず、クライエントから受けとるさまざまな印象も逆転移である。 

また、援助者がクライエントとは直接関係のない個人的感情をクライエントに向ける逆転移もある。「昔の恋人に似ているから、心惹かれる」などである。さらに、援助者の個人的な心理的・社会的欲求がクライエントに向けられることもある。 

「他の援助者に、自分の援助能力を見せつけたくて、一生懸命援助する」などである。あるいは、経験不足とか知識不足のため、決定的場面で援助をどう進めればよいかを迷う感情をクライエントに向ける場合もある。 
(引用ここまで)


援助者が為すべきは「クライエントとの距離を縮めること」ではなく、極論、「もう二度と、援助者・クライエント関係という2者関係を結ぶ必要がなくなる状況」を両者で協力して生み出すということ。


とある問題が生じたことにより生まれた関係であるので、それが消失したり、クライエント自身で、対処できるような状態になれば、援助者の役割は終了(援助終結)になるのだから。


対人援助職がクライエントと築く関係性とは、「”非”日常性かつ、特定の目的を有した関係性」である


このことを常に胸に留めておきたい。




【参考書籍】

ケースワークの臨床技法―「援助関係」と「逆転移」の活用


転移・逆転移については、尾崎先生のこの本にお世話になりました。転移は”扱いづらく危ないもの”という当時抱いていた考えを見つめ直すきっかけを与えて頂いた一冊です。

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